壁に耳
私はボロボロの壁を持って走っている。
ざあざあ降りだなんて構わない。息が切れる。構やしない。
靴は泥水を踏んでは跳ねて汚れ切っている。
走らねばならない。走らねばならない。
高校の友達の悩みも、幼稚園の先生へのプレゼントも、
おばあちゃんの腰痛のお見舞いだって、
お稽古の失敗のぐちぐちだって、
たっくんに告白して大喜びしたあの日だって。
走らねば。走らねば。
ぎゅっと握りしめた壁はだまって握られている。
雨が降ろうが矢が降ろうが構やしない。
私だけが、私には、耳が、耳を。
はぁ、は、はぁ。
引っ越しだなんて聞いてない。
居てもたってもいられなかった。
壁を壊すだなんて正気の沙汰じゃないって、わたしだってしってるわ。
でもわたしにしか知らない、耳が、耳が。
はぁは、はぁ。
どこへ、どこへ行こう。
私しか知らない、私の耳を。
はぁ、は・・はぁ・・・はぁ
はぁ は はぁ は・・・・・・