世界を落ちる
老いた蝙蝠は考えていた。
死の間際、己のいきつく先を。
産まれてこの方、落ちたことが無い。それは蝙蝠たちにとって死を意味するからだ。
足を怪我したりなどしたら一巻の終わりである。
世界の底へ落ちて帰って来たものは居ない。
世界というものは、天のつかまりし柱と、その間に広がる空間によって成り立っている。
我々はそれを飛び交い、仲間と会うては挨拶を交わし、虫に会うてはとらえこれを食い。
疲れてはつかまりし柱にて眠りをする。それが世の理である。
先日、仲間を弔った。長年の仲間だった。
彼もまた私のように老いていたので、もうじきとは思っていた。
私は皆がそうするように鳴いて悼んだ。そうして後、皆いつもの世の理へと戻る。
解散した。
私は、些かいつもの私ではなかった。
私もじき逝くだろう。仲間のもとへ行くだろう、しかし、仲間のもととは、
そこは、いったい、なんなのだ?なにとはって、そりゃあ・・・
・・・なんだ?
・・わたしは、死の間際考えていた。
そうだ、どこなのだ。わたしのいきつく先は、どこなのだ。
仲間の落ちて行った先は、どこなのだ。
母の、父の、ご先祖様の、落ちて行った先は、いったいどこにあるというのだ。
ああ、わたしは、どこへおちていっているのだろう・・・・・・・
老いた蝙蝠が、暗い暗い中をまっすぐに、
どこまでもどこまでもおちていった。